
第2号
〜融解し浮遊するコトバ〜
- 【感触】 吉澤久良
- 《急》
凶眼の月 燎原に棒一本
渇き谷 逆子のアダム 悲の器
ゴムの蛇 イヴの幻聴 花篝
蝶濡れて首都に繁殖する神話
土偶の眼窩にみっしりと蟻
朧夜の荒地野菊を分け老婆
鏡坂ほろほろ落ちてくる園児
板の間を横切る手足のついた花
ネジ式の首据えかえて口の闇
水無月の魚眼ひとつとなりはてる
《緩》
空は合板 世界は火事なのだろう
遠干潟孵化せざるもの降りつのる
曙光は雪崩れ私の手の長さ
朝蝉や苦き音叉を受胎せり
パン皿の静謐妊婦は透き通る
夏の潮記憶の林檎漂流す
バベルの塔眼路の限りに一年草
オニヤンマ燃えるいずれか夢幻なる
鳥渡るあるかなきかの糸を引き
頭上の骨格標本 薄墨の松葉杖
戻る|
目次|
次へ
